要点
- WeRideが、売上高の減少と損失の拡大を報告しつつ、100億ドル以上の時価総額を誇るという自己紹介のもと、米国に上場を申請した
- 同社のR&D(研究開発)費用は、今年上半期において売上高の3倍以上となる規模だった
エディス・テリー氏の執筆
先週、自動運転車メーカーであるWeRide社がナスダック上場を申請した際、それは大きなアナウンスとなるはずだった。昨年3月、ブルームバーグはこのような上場が事実上5億ドルにも上るほどの資金を調達すると予想し、中国企業がニューヨークで行った中では、2021年のライドシェア大手DiDi Globalの44億ドルIPO(新規株式公開)に次ぐ規模となると報じた。
しかし、その間に同じような中国自動運転のIPOが次々と市場に出て、状況は一変した。それが上場を果たした企業のうちわずかなものにとってのパフォーマンスも印象的ではなかったとはいえ、WeRide社のIPOの興味深い点がある。
WeRide社の会長兼CEOであるハン・シュウ氏は、中国の自動運転部門の首脳として名高い百度(NASDAQ:BIDU )の元首席科学者だった。それ以前は、イリノイ大学で博士号を取得した後、ミズーリ大学の電気・コンピューター工学の教授を務めていた。
CTO(最高技術責任者)のリ・ヤン氏は、WeRide社を2017年にハン氏と共に創業する前に、マイクロソフト、Meta、そしてNEV企業であるU Power Ltd.で働いていた。同社の取締役会には、Mubadala Disruptive Investments北京事務所長のモハメド・アルバドル氏や、Qiming Investment Partnersの創業者であるクアン・ジーシン氏が名を連ねている。
ルノー・日産・三菱自動車連合の派生企業であり、WeRide社のクライアントであるAlliance Venturesは、主要な投資家としてIPO株式を9700万ドルで購入することを約束した。同社はこれまで11回の出資ラウンドで10億ドル以上を調達しており、今年6月にも出資ラウンドを実施している。このラウンドにはAlliance Ventures、Mubudala Investment Authority、カーライル、Qiming、ボッシュ、チップのスーパースターであるNvidiaらが参加した。
2022年の出資により、WeRide社の評価額は51億ドルとなり、今回の6月の出資によりその評価が倍以上の121億ドルにまで膨れ上がっている。WeRide社のIPOは、モルガン・スタンレー、JPモルガン、及び中国を代表する投資銀行である中国国際金融股份有限公司(CICC)からなる豪華な一群のアンダーライタたちを誇っている。
もう1つのセールスポイントは、WeRide社の国際的な影響力である。同社は、中国、シンガポール、アラブ首長国連邦、そしてアジア、中東、ヨーロッパの合計7ヶ国30都市でサービスを展開しており、自動運転タクシーのフリート検証を行なっている。WeRide社の見解によると、同社は2019年以降の中国と中東での商業運用において、1700日間に渡って事故を起こしていないとのこと。
ただ、この上場が資金調達の規模という意味で新たなフィールドを切り開くとは確信できる人物は皆無だ。中国ルネサンスは、このIPOがたった1億ドルしか調達しないかもしれないと予想しているが、同社の数千億ドル規模の時価総額とルノー・日産・三菱自動車の約9700万ドルもの出資が既に確定していることを考えると、この数値は低すぎるように思える。
自動運転技術の中で、WeRide社は「世界で最初のもの」と主張する部分がいくつかある。しかしながら、同社の財務状況は、自動運転車輌エコシステムの中でトップクラスの企業とは言い難い。この業界では皆が大きな資金をR&Dに投じているが、それにより利益が出ていない。WeRide社は自社を「アセットライト」企業と位置づけており、その結果として収益は極めて低い状況にある。また、この会社は昨年、売上の55%を占める最大の顧客に非常に依存している。
売上の減少
同社は6月末時点で18億人民元の現金を持っていたが、今年上半期の売上高は1億5000万元にとどまり、昨年同期の1億8300万元からほぼ20%も減少している。2023年の売上は40億2000万元で、2022年の5億2800万元からも20%以上減少した。売上規模はまだまだ小さいが、成長力を投資家に売り込む上では楽観的な結果とは言えない。
2023年に売上が減少した背景には、WeRide社の主要顧客である中国国際バス(Yutong Bus Co.)が過剰生産のために2023年にはロボバスを購入しなくなったことがある。その結果、WeRide社のロボバスの売上は、2022年の90台から、昨年はわずか19台にまで落ち込んだ。2019年から2023年までの4年間で、WeRide社は合計147台のロボバスと19台の自動運転タクシーを販売した。また、同社はロボバンとロボ掃除機も製造している。
一方で、WeRide社のサービス提供はある程度改善されている。同社のサービスからの収益は2024年上半期で1億2900万元に達し、その売上額は製品販売の2100万元の6倍以上となっている。WeRide社の主なコストはR&D費用であり、今年上半期には5億1700万元に上り、前年同期比で37%増加した。このR&D費用は売上高の3倍以上を占めている。
6ヶ月間の損失は、1年前に比べて8億8200万元から7億2300万元に拡大している。
同社は、今年ロボタクシーの大規模生産を始め、2025年にはロボバスの大規模生産も始める予定であり、その結果として状況は改善するはずだ。WeRide社が公開した調査によると、完全自動運転車輌の市場は2030年までで1700億ドルに達するだろうとのことで、そのうちの3分の1以上の部分が中国市場である。中国メディアの報道によれば、WeRide社はロボバス2000台の意向を受け取り、ロボバンについては1万台以上の意向を受け取ったという。
自動運転車輌企業としては最も注目を集めているかもしれないWeRide社だが、市場には他にも多くの同様の企業が存在している。トヨタにバックアップされた自動運転タクシースタートアップであるPony.aiやBYDにバックアップされた自動運転ソフトウェア開発企業であるMomentaも、中国証券規制当局の認可を受けて米国でのIPOを実施する予定だ。
自動車用チップの設計に携わるHorizon RoboticsやBlack Sesame Technology、および無人運転ソフトウェアのプロバイダーであるZongmu Technologyも、香港での上場を申請している。また、自動運転技術のテストを行っているのは、iMotion Automotive(1274.HK)とHesai(NASDAQ:HSAI)である。それぞれの企業は、過去1年間で香港と米国で上場を果たしている。
ここまで多くの企業が集まっている状況下で、WeRide社はどうやって差別化を図るのか。同社は、部分自動運転から完全自動運転まで、商用化の完全なレンジの自動運転商品及びサービスを提供している唯一の企業であると自負している。また、WeRide Goと呼ばれる同社のアプリは、「他の共有モビリティプラットフォームと提携し、地域の市場にアプローチする」としている。
ルネーサンス・日産・三菱自動車連合のアライアンス以外にも、WeRide社のパートナーはいくつか存在している。その中には、中国最大手バスメーカーである厦門金旅バス(Xiamen Golden Dragon Bus)や、フォードと江鈴(Jiangling Motors)の合弁会社であるJMCフォード・モーターズ、そして現代自動車も含まれる。
投資家たちも、新規上場が相次いでいる状況に疲れてしまっているのかもしれない。既に上場を果たしている企業の中で、2023年12月のIPO価格から約8%下回っているだけでなく、2023年4月のピークから75%も下がっている新興企業の株価を持つ<iMotionがその一例である。また、Hesai社は2023年2月の上場以降、時価総額の81%を失っている。
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